このアプリは何をするもの?
「目標の付着量を出すには、ノズルをどこに置けばよいか」を答えるツールです。 実機を動かす前に、操業条件を決めるために使います。
使い方(3ステップ)
ライン(GI/GL)と めっき付着量記号 を選びます。記号を選んだ時点で、 その記号を過去に作ったときの標準的な条件が全部入ります。 板厚・板幅ははじめ 0.40 mm / 1219 mm なので、作るコイルに合わせて変えてください。
初期値はその記号の 実績中央値 です。そのままでよければ触る必要はありません。 「実績中央値」「実績の下側P10」などのボタンでも設定できます。
生産計画で通板速度が決まっているなど、動かせない条件があればここで合わせます。 値を変えると答えは自動で計算し直されます。
入力はバーでも数値欄でも構いません。どちらか一方を動かせばもう一方も追従します。 数値欄では ←→ キー(上下キーも可)で1目盛ずつ増減できます。
白く光っている項目が 変更が必要な条件 です。「▲4.23 変更」のように、 いまの条件からどれだけ動かすかも表示されます。
画面ごとの説明
画面は 実績モデル(4つ) と 理論モデル(4つ) に分かれています。 いちばん上のバーでモードを、下のバーでタブを切り替えます。 ふだん使うのは実績モデルの「条件設計」だけで足ります。
① 条件設計 ── 主役の画面。ここだけで完結します
手順2 目標のめっき付着量(両面合計)
手順3 すでに決まっている条件(通板速度・ポット温度・2JC進入板温)
② 装置画面 ── 現場の監視画面と同じ並びで確認する
③ 条件比較 ── 「もし〜したら」を試す
実績データを使わず、文献の物理式だけで計算します。 ガス種やノズルすき間を変えたい、実績範囲の外を見たいときだけ使ってください。 GL(ガルバリウム)には使えません(浴温約600℃が物理モデルの前提外)。
④ 条件設計(理論)── 圧力とノズル距離を求める
⑤ かんたん ── 速度もすき間も未定のとき
⑥ 検証 ── 決めた条件の余裕を見る
⑦ 実績校正 ── 物理モデルを自ライン用に合わせる
知っておくとよいこと
付着量記号もこの値に対応します(Z08→約94、AZ150→約161)
数値が大きいほど鋼帯から遠く、付着量は増えます
圧力・流量・Yノズル位置は実機で連動して動かされてきたため、
1項目だけの効果は実績データから切り分けられません
操業上の取り決めです(圧力はほぼ固定運用のため最後)
圧力を変えた提案では流量も自動で追従させています
これらを変える提案は出しません
実績データで、何がどれだけ効いていたか
付着量記号の違いを打ち消したうえで、条件ごとの効き目を実績から求めた値です。 いま選んでいるラインの数字を出しています。
ワイピングの一般知見(公開文献・特許より)
このアプリの実績データではなく、社外に公開されている研究・特許で共通して 報告されている内容です。条件を大きく動かす前の判断材料にしてください。
ノズル圧力を上げすぎると
- スプラッシュ(飛散)が出ます。ワイピング点のすぐ上流で液膜が不安定になり、 液滴が飛び散る現象で、薄目付の実質的な限界を決めているのはこれです。 飛んだ亜鉛は酸化してドロスになり、再付着すると粒状の欠陥になります。
- 発生限界はウェーバー数
We = ρgU²δ/σで整理され、 ガス速度の2乗で効きます。圧力を上げるほど急に危険側へ入ります。 - 鋼帯のばたつき(フラッター)を誘発し、付着量のムラや条痕の原因になります。
- ガス消費量と騒音が増えます。エアナイフ騒音は圧力とともに増大します。
ノズル圧力を下げすぎると
- ワイピング力が足りず付着量が過大になります。亜鉛の使いすぎで歩留りが落ちます。
- 膜が厚いまま持ち上がるため、凝固までにたれ・波(リップル)が残りやすくなります。
- 幅方向の圧力分布が相対的に弱くなり、幅方向のばらつきが出やすくなります。
ノズルを鋼板から離しすぎると
- 噴流が広がって最大衝突圧力と圧力勾配が落ちます。遠方場ではおおむね距離に反比例して 弱まるため、同じ付着量を出すのにより高い圧力が必要になります。
- 圧力分布の山がなだらかになってワイピング点がぼやけ、付着量の制御性が落ちます。
- 幅方向で噴流が板端へ回り込みやすくなり、エッジオーバーコートが出やすくなります。
ノズルを鋼板に近づけすぎると
- 局所のせん断が強くなりスプラッシュが起きやすくなります。飛んだ亜鉛がノズルリップに 付くとスリット詰まりとなり、その筋だけ付着量が増えて縦筋状のムラになります。
- 鋼帯のばたつきに対して接触・ノズル損傷のリスクが上がります。
- 板端で表裏の噴流どうしが衝突して流れが乱れ、エッジオーバーコートや 端部のスプラッシュを招きます。
エッジオーバーコート(端部の厚づき)
- 板端では衝突圧力が下がり、さらに表裏のジェットが互いにぶつかって流れが乱れるため、 端部だけ付着量が増えます。
- 対策には端部に置くバッフルプレート(邪魔板)が広く使われます。 厚さ2 mm程度が有効という報告があります。
- 邪魔板の代わりに、ノズル下リップに沿って小径の円柱を置き、噴流をわずかに下向きへ 偏向させる方式のほうが有効という解析結果もあります。
速度・スリット・ガス種について
- 通板速度…速いほど鋼帯が持ち上げる液膜が厚くなり、付着量は増える方向です。 薄目付ほど低速・高圧が必要になります。
- スリット開度…ある距離に対して薄目付に有利な最適開度が存在します。 広げれば流量は増えますが、それだけで薄くなるわけではありません。
- 噴流角度…わずかに下向き(例:5°)にするとスプラッシュの発生が遅れるという 報告があります。
- 3スリットノズル…主スリットの上下に補助スリットを設けて衝突圧力分布を整え、 薄目付とスプラッシュ抑制を両立させる方式が実用化されています。
- ガス種…窒素は亜鉛の酸化やドロス生成を抑えられますが、密度が空気とほぼ同じなので ワイピング力そのものは大きく変わりません。
計算のしくみ(何を根拠に出しているか)
2つのモードはまったく別の原理で答えを出しています。 結果をどこまで信じてよいかは、この違いを知っているかで変わります。
物理式は一切使いません
(GI 7,076 / GL 7,314・製品1本につき代表値1点)
(付着量記号・スパングル・化成処理・材質・規格など)
両面合計 CH = CF + CG とします
そこからのズレ(残差)だけをモデルが予測します
目標と交わる点を拾い、その周りを24回二分して詰めます
(GLは応答が単調でないため)
実データの効きと向きが合わないときは延長しません
GI 6.7(最悪月 6.9) / GL 3.2(最悪月 4.2)g/m²
月ごとに「その月より前だけで学習して、その月を当てる」検証です
これは学習に使った期間での値で、実力ではありません
学習に使っていない期間では改善が確認できていません
(中央値のみ 2.74 / 残差あり 2.89 g/m²)。
GLの予測は実質「付着量記号ごとの実績中央値」とみなすのが安全です
実績データは一切使いません
→ 鋼板面の圧力分布 p(x) とせん断応力 τ(x)
→ 液膜の流束式 → 膜厚 → 密度を掛けて付着量
Q(H) = H + S H²/2 − G H³/3膜厚
H* = [S + √(S²+4G)] / 2G実際の流束は最小の断面で決まる
Qw = minx Qmax(x)S=噴流のせん断、G=重力+圧力勾配噴流が無い極限では自由引き上げ
h=(2/3)√(μV/ρg) に一致します遠い距離(Z/d≧9)は Ellen & Tu 系、
その間はなめらかにつなぎます
(Gosset & Buchlin 2007 / Myrillas ら 2011)
(「実績校正」タブ)
結果をどう扱うか
平均誤差は個々の予測の信頼区間ではありません。 「差が平均誤差より小さいから変えなくてよい」とは言えません。 このアプリが言えるのは「モデルがその差を判別できるかどうか」までです。
圧力・流量・Yノズル位置は実績上たがいに連動して動かされてきたため、 1つだけを大きく動かした結果は因果関係を保証しません。
1何を作るか
付着量記号を選ぶと、その記号の 実績中央値 がすべての初期値に入ります。
2目標の付着量
両面合計(表面平均+裏面平均)で指定します。片面平均ではありません。
3動かせない条件
生産計画などで先に決まっている条件があれば、ここで合わせてください。
いまの条件をすべて確認・変更する
Yノズル位置は設備Y座標で、数値が大きいほど鋼帯から遠い側です (鋼帯表面からの絶対距離ではありません)。
診断値
計算に必要な値が取れていない項目は、0で埋めずに「未取得」と表示します。
操作量を振ったときの応答
いまの条件から1項目だけを実績範囲で振ったときの 両面合計付着量 です。 赤い破線が目標、●が現在条件、薄い帯が実績のP10〜P90です。
この画面は「もし〜したら」を試す場所です
「条件設計」でいま入っている条件を 基準 とし、そこから条件を変えたときに めっき付着量がどちらへ何 g/m² 動くか を見ます。目標から条件を逆算する画面ではありません。
1変更後の条件をつくる
よくある変更はボタンひと押しで入ります。押すたびに基準から積み上がります。 ノズル圧力・通板速度を変えたときは、実績の関係にそって ノズル吹込流量も自動で追従 させます。
はじめに:理論モデルの使い分け
GL(ガルバリウム)には適用できません。理由は浴温だけではありません。 ①浴組成が Zn-55%Al-1.6%Si で、モデルが持つ物性は純亜鉛系のものです。 ②液体物性(粘度・密度・表面張力)の温度依存式が溶融亜鉛(420〜500℃)で 当てはめたもので、約600℃・高Al組成には外挿になります。 ③凝固挙動が違い、GLは初晶Alデンドライトが広い温度幅で晶出するため、 ワイピング後の膜が「一定粘度の液膜のまま持ち上がる」という前提が成り立ちません。 ④酸化被膜の性状も Al 系で異なります。 以上のいずれもモデルに入っていないため、GLの計算値は使わないでください。
目標めっき付着量を出す「噴射圧力」と「ノズル距離」を求める
条件一式をまるごと提案する
条件がずれたときめっき付着量がどう動くかをグラフで確認する
最初に一度やっておくと以降の精度が上がる
1いま変えられない条件
設備・製品側で決まっている条件を入力します。これを固定したまま、目標めっき付着量を出すための 噴射圧力 と ノズル距離 を計算します。
2目標
作りたい 片面 めっき付着量を入力します(両面値ではありません)。
実績モデルとくらべる
同じ操業条件について、実績から学んだモデルと物理式が何を答えたかを並べます。 2つが近ければ、その条件は物理的にも実績的にも無理がないと判断できます。
3つ入れるだけの条件出し
ノズルすき間・通板速度・浴温がまだ決まっていない段階で使います。
ガス種・板幅・目標片面めっき付着量 だけから、標準操業を前提にした条件一式
(すき間/通板速度/浴温/噴射圧力/ノズル距離)を提案します。
前提条件を変える(通常は変更不要)
この条件で本当に大丈夫か確かめる
「条件設計」「かんたん設計」で決めた条件がここに入っています。
数値を直接動かして どれくらい余裕があるか、条件がずれたらどうなるか を確認してください。
予測結果
「再計算する」を押してください。
リスク判定
操業前に確認すべき3点です。
1項目だけ動かしたときのめっき付着量
噴射圧力を変えたら
ノズル距離を変えたら
通板速度を変えたら
噴射圧力 × ノズル距離 マップ
装置と条件の関係(模式図)
入力した条件が図に反映されます。縮尺は実機と異なります。
専門家向け:ノズル近傍の分布と計算内訳
① 衝突圧力 P(x)
② 壁面せん断応力 τ(x)
③ 液膜厚さ t(x)
④ 計算内訳
⑤ モデルからの注意
実機の実績にモデルを合わせる
このツールは公開文献の相関式ベースなので、そのままでは自ラインと数%〜十数%ずれます。
実機で測っためっき付着量データを読み込むと、モデルを自ライン用に補正します。
補正後は「条件設計」「かんたん設計」「検証」のすべての計算に自動で反映されます。
一度実行すればブラウザに保存され、次回起動時も有効です。
1実績CSVを読み込む
条件がばらついた実績が 8件以上 必要です(圧力・速度・すき間・距離・実測めっき付着量それぞれ3水準以上)。
CSVの列(必須7列)
| 列名 | 意味 | 単位 |
|---|---|---|
| plenum_pressure_kpa | 噴射圧力(プレナムゲージ圧) | kPa |
| nozzle_gap_mm | ノズルすき間 | mm |
| nozzle_strip_distance_mm | ノズル-鋼板距離 | mm |
| line_speed_mpm | 通板速度 | m/min |
| strip_width_mm | 板幅 | mm |
| bath_temp_c | 浴温 | ℃ |
| measured_cw_one_side_gm2 | 実測片面めっき付着量 | g/m² |
| gas_type | 任意(air / nitrogen)。無い場合は air | - |